マグネシウムの加工技術毎の最新動向、取り組み事例のご紹介

マグネシウムの加工技術毎の最新動向、取り組み事例をご紹介させていただきます。

構成と致しまして、

●先ず、ものづくり総合産業としての自動車分野、特に「自動車構造材の軽量化と多様化」の視点で、全体を俯瞰し、
●次に、前回までの連載で提起させて戴きました「3つの分析の視点」から、押さえておきたい加工技術の動向と、国内外の取り組み事例をご紹介させて戴き、
●最後に、それを受ける形で、茨城マグネシウム工業会会員の加工技術戦略など、訪問・取材レポートを 順次、ご紹介していけたらと考えています。

自動車構造材の軽量化と多様化

マグネシウムの加工技術動向を効率よく全体俯瞰するためには、ものづくり総合産業としての自動車分野、特に「自動車構造材の軽量化と多様化」に着目してみていくことが有効です。
そこで、基本となる技術資料として、2014年公開の三井物産戦略研究所 マテリアル&ライフイノベーション室 大楠恵美氏著「戦略研レポート:自動車構造材の軽量化と多様化(以下、レポートと略します)」が、ポイントを的確に押さえ、結びに「軽量化がもたらすもの」と題し示唆に富む提言がなされています。非常によくまとまっていますので、是非、皆様にご紹介していきたいと思います。

レポートでは、
●先ず「はじめに」、「自動車軽量化への要請」と題して、世界が環境配慮型シナリオを選択し、環境負荷低減策が強く推進されされた場合には、自動車の電動化が急速に進む可能性があるとし、既に「環境性能向上の意識は製品化の形で表される段階に入っている」との現状認識を示されています。

その現状認識のもと、軽量化がもたらす効果について、「エンジ ン車や HEV では燃費削減において、 PHEV、EV、FCV では電池容量やモー タ容量の低減による車両コスト低減において、 特に大きな効果を示す」とし、

これからの自動車構造材のトレンドとして、「これまでの鉄鋼主体から、 アルミニ ウムやマグネシウム、複合材等の軽量化素材の比率を増加させ多様化 (マルチマテリアル化)に向かうとみられる。マッキンゼーでは、高張力鋼(以下、 ハイテン)を含む軽量化材の占める割合が今後 20 年間で 2 倍に増えると予測しており、 国際自動車工業連合会 (OICA : Organisation Internationale des Constructeurs d’Automobiles) は欧州車を例に取り、 アルミニウムや樹脂を多様するマルチマテリアル化を予測している 」ことを紹介しています。

但し、現状では「鉄鋼が圧倒的な主流で、 アルミニウムが拡大を狙い、 マグネシムと CFRP が実用化を目指して開発中、 という段階にある。 今後、各材料において高性能化やコスト低減 等の開発が進められるとともに、 これら材料の組み合わせによる最適化が図られることになる。」とし、

「異種材料を接合する技術の必要性は既にうたわれているが、 同じ素材で特性の異なるものを複層化することや、 異種材料を複合化 ・サンドイッチ化することにより、おのおのの長所を兼ね備えさせることも検討されている。 単一材料の進化だけでなく、 異種材併用を前提とした開発へと動き始めている。」とし、

自動車軽量化に向けて、これから注目すべき加工技術が紹介され、素材としての鉄鋼・アルミニウム合金・CFRP(炭素繊維強化プラスチック)と並んで、マグネシウムの現状と今後の展望について報告されています。

●マグネシウムの現状として、
「2005年時点での車 1 台当たりの使用量は、欧州で 6kg、 日本では 2kg と、 ごくわずかにとどまっている。 燃えやすい、耐食性が低い、加工性がアルミよりも劣る、高価である、 など、 モノづくり に不向きな点が多いことが普及の進まなかった理由である」とし、

各問題について対策研究の現状を概観し、概ね克服段階にあることが示され、大きな軽量効果が期待されるマグネシウムの需要予測について、「特に自動車での採用が期待されており(図表 11)、米国 USAMP (U.S. Automotive Materials Partnership) では 2005 年の 使用量 4.5kg が 2020 年には鉄鋼およびアルミを代替して 159kg に増加するとする 「Magnesium Vision 2020」 を発表している。 マッキンゼーによる 2030 年の自動車素材に占めるマグネシウムの割合予測は 5%だ。 また、航空機での採用も見込まれており、英 Magnesium Elektron のマ グネシウムが、 これまでのアルミに代わって椅子の構造部材に使われることが認められた。 これは不燃性マグネシウムではないが、 要求特性を満たす適用先を選ぶことで軽量化への寄与が可能であることを示している。 」としています。

更に、世界の開発動向については、「日本に比べ既に採用傾向にある欧米で研究開発プロジェクトが盛んで、 欧州のEUCAR、米国の USCAR、ドイツの SFB390などがあり、 また、 韓国が公的研究機関やPOSCOを中心にマグネシウム関連の開発に力を入れていることが特筆される。」とし、

「マグネシウムの採用拡大はまずはダイカスト材からとなるだろう。 しかし、 アルミ同様、その次に求められるのが板材であるのは明らかだ。そうしたなか、 住友電工がAZ91 の板材の量産化に世界で初めて成功した。 加工には 200℃以上の高温とする必要があるが、 鋳造がほとんどである現状から大きく一歩踏み出したといえるだろう。 ほかにも、 溶湯から薄板を直接作製するストリップキャスト法など、 圧延コストを下げる研究が行われており、 今後、板材の製造およびその成形加工がユーザーの要求に応えられるレベルとなることが期待される。」

「価格低減も達成すべき課題の一つであり、 板材でまずは 1kg 当たり 2,000 円以下、 さらには 1,000 円以下が目標価格となるもようである。」としています。

●最後に、「軽量化がもたらすもの」として、
2013年度から、10年にわたり研究開発がなされる国の「革新的新構造材等技術開発プロジェクト」が紹介され、

「素材メーカーを中心とする38の機関が参加し、 新構造材料技術研究組合を組成している 。 鋼 板、アルミニウム、マグネシウム、チタン、CFRP について、 高強度、 高延性、 不燃性、 耐食性、 耐衝撃性などを有する軽量化素材を開発、 またそれら軽量化素材を用いるための接合技術や接合部の性能評価技術の開発を行い、将来、輸送機器重量の半減を可能にすることを目指しており、 マルチマテリアル化が進む車両素材において 日本の技術の優位性を保つものとなることが期待される。 」としています。

今回は、ここまでと致します。